Lingva Demandokesto ことばの質問箱 横山裕之編 <7>
◆質問 ata, ita 論争
エスペラントの文法に関してata, ita 論争というのを以前、聞いたことがありますが、よくわかりません。簡単に説明してください。
●回答 ata, ita 論争とは、エスペラント界で1930年代から1960年代まで盛んに行われた受動態の分詞の正しい用法に関する論争で ata派と ita派に分かれました。現在では ita派で決着しています。
この論争の主な争点は、受動態にする場合に、「esti + -ata」と言うのか、「esti + -ita」と言うのかということです。「その手紙を昨日書いた」にあたる Mi skribis la leteron hieraŭ. は受け身にすると La letero estis skrib*** hieraŭ de mi. になりますが、*** がどうなるか、です。
まず、現在では非主流の ata派の主張です。分詞の -ata と -ita の違いは、時制の違いだとしています。つまり、-ata は話題の時点と同時に行われたことを表し、-ita は話題の時点よりも以前に行われたことを表すことになります。「その手紙は昨日書かれた。」は、La letero estis skribata hieraŭ. となります。これを La letero estis skribita hieraŭ. とすると、「その手紙は昨日より前に書かれてあった。」ということに解釈されます。
一方、ita派は、分詞の -ata と -ita の違いは、相(アスペクト)の違いだとしています。「相」というのは、行為の進行状況を表わす用語です。-ata は行為が継続していて未だ終わっていないことを表し、-ita はその行為が、すでに完了したことを表します。skribataなら話題の時点での継続、書かれ続けていたがまだ終わっていない、skribitaなら終わったとなります。
すなわちita派では「その手紙は昨日書かれた。」に対する普通の表現は La letero estis skribita hieraŭ. になります。これを、La letero estis skribata hieraŭ. とすると、「昨日ずっと手紙が書かれ続けていた。」という、継続を強調した表現になります。もし、「その手紙は昨日より前に書かれてあった。」と言いたいなら、La letero estis jam skribita hieraŭ. とか、La letero estis skribita antaŭ ol hieraŭ. という表現も使えるでしょう。
この論争のためにザメンホフの文例が研究し尽くされ、例外はあるが今言う ita派の用法が主流ということが分かりました。最終的には、エスペラント学士院(Akademio de Esperanto)が、itismo(ita派の主張)を1967年に採用しました。現在では、この論争はita派主流ということで沈静化して、教科書でもこれに沿って説明しているのが多数です。(編集部)
参考文献:Vojaĝo inter la tempoj, K. Kalocsay. 1966年.197p.「-ata/-ita論争」を終結に導いた名著. 1200円.
【La Revuo Orienta誌 2017年12月号より】