Lingva Demandokesto ことばの質問箱 横山裕之編 <29>
●回答
(本件は「やさしい作文」講師の阪さか直ただしさんに伺いました:編集部)
このように問われたとき、その答えをいうのは難しい、というよりほとんど不可能といえるでしょう。これは私にとってだけではありません。わたしは日ごろ文通している三人のエスペラント・アカデミー会員(カッコ内は母語)、Renato Corsseti(イタリア語)、AnnaLöwenstein(英語)、Boris Kolker(ロシア語)にこの質問をしてみたのですが、三人とも「senco とsignifo とはほとんど同じ意味で、その区別を説明することはできない」という返事でした。senco とsignifo の用例はたくさんありますが、それらの用例からsenco とsignifo を使い分ける法則のようなものを見つけ出すことは不可能です。わたしはsignifoという語に 「堅さ」を感じていましたので、「signifo は言語学用語」というBoris の意見は抵抗なく受け入れることができました。
senco とsignifo の用例を Plena IlustritaVortaro de Esperanto から紹介しておきましょう。(イタリック体は引用者) sensignifaの語義説明にsenco が使われています。
Sensenca: Prezentanta nenian sencon(無意味な)
Sensignifa: Havanta nenian precizan sencon(どんな正確な意味も持たない)
さて、ではエスペラントで文章を書くとき、senco とsignifo のどちらを使うべきかという問題になりますが、これらの語に対応する語を持つ母語で育った人たちにとっては、このような問題提起自体が不可解なものとして感じられるでしょう。これは例えば、私たちが日本語で文章を書いているとき、「『意味』を使うか『意義』を使うかで迷うことがありますか」と尋ねられた戸惑いに似ているかもしれません。「意味」と「意義」は広辞苑(第六版)では、下記のように定義されています。
【意味】物事が他との連関において持つ価値や重要さ。
【意義】物事が他との連関において持つ価値・重要さ。
このように「意味」も「意義」も同じ意味を持っていますが、わたしたちは「意義ありげな笑い」とは言わずに「意味ありげな笑い」と言いますし、「そんな事をしたって意義がない」とは言わずに、「そんな事をしたって意味がない」のように言います。この歴然とした区別も、なぜそのように使い分けるのかの説明が難しいのと同様、senco とsignifo との使い分けを分かりやすく説明することはほとんど不可能に近いように思われます。ただし、「senco とsignifo との使い分けは難しい」というだけでは学習者への支援になりませんから、便宜的ではありますが、次のような説明が役に立つでしょう。
「・senco: 語や文の意味 例: la senco deĉi tiu vorto(この単語の意味)
・signifo: 語や文以外(ジェスチャーなどを含む)の意味 例: la signifo de ĉi tiu signo( この記号の意味)」
注: 言語学用語としては、「語や文の意味」にsignifo が使われる。
なお、柴山純一編集長からは下記のようなメールをいただきました。
私の見るところ、signifo には「+の価値判断」で、たとえば、「signifo de mia vivo とか、signifo de la verko al la epoko のような例はあるが、これはsenco にはならない」といったことがあるように思えます。
【La Revuo Orienta誌 2019年10月号より】