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ことばの質問箱 R.O. 2019年6月号

Lingva Demandokesto ことばの質問箱 横山裕之編 <28>

◆質問 -aŭ で終わる語の起源
 副詞、前置詞、接続詞には-aŭ で終わる語が多いですが、そのルーツを教えてください。

●回答 エスペラント(E)には -aŭ で終わる語が20 語ほど存在します。
 そのうち、接続詞aŭ はラテン語の接続詞aut「または」から、また数詞naŭ は印欧語の基数詞の「9」(ラテン語novem、フランス語neuf、イタリア語nove;英語nine、ドイツ語neun など)から、そして前置詞laŭ はドイツ語の前置詞laut「~によれば」(更にはドイツ語名詞Laut「声、音」より) に、間投詞adiaŭ はフランス語adieu「さようなら」に由来します。
 これらの内、naŭ と adiaŭ 以外の語では、原語の二重母音(diftongo)を活(い)かした語形が採用されており、その意味ではこれらのE 単語の語源を知ることがE 学習にも役立つ可能性があると言えるでしょう。
 残る前置詞anstataŭ、antaŭ、ĉirkaŭ、kontraŭ、malgraŭ、形容詞 / 代名詞ambaŭ、副詞almenaŭ、ankaŭ、ankoraŭ、baldaŭ、 hieraŭ、hodiaŭ、morgaŭ、preskaŭ、接続詞apenaŭ、kvazaŭ の複数音節の単語群には何か共通の語源が想定されるように思われるかもしれませんね。
 ところで、G. Waringhien(1989) はEsperanto 以前(1881-1882 年) にザメンホフが発表した「原エスペラント(Pra-Esperanto = PraE)」においては-aŭ が女性を意味する接尾辞であったと言っています。
 なるほど英語cow カウは「雌牛:bovino」ですし、ドイツ語Frau フラウは「婦人(virino);妻(edzino)」で、同じく独語のSau ザウは「メス豚:porkino」を意味するのですから、この女性接尾辞の由来説も一理あるのかもしれません。PraE の例:filaŭ はE の filino。
 PraE では現在の-aŭ に終わる語は当然ながら別の語形でした。Günkel(1996)によれば以下のごとく単音節語であったようです。
 paś (=almenaŭ)、baj (=ambaŭ)、os(=ankaŭ)、es (=ankoraŭ)、vi (=antaŭ)、k a ŭ ( = a p e n a ŭ )、j u r ( = h i e r a ŭ )、b l o(=kontraŭ)、vel (=kvazaŭ) など。
 それではE の前置詞、形容詞 / 代名詞、副詞、接続詞の-aŭ の語源は何なのでしょうか。
 この問いの答えとしては、様々な説がこれまでに提唱されていますが、今回はリトアニア語語源説を紹介します。
 リトアニア語に-iau という語尾があります。この-iau ですが、元来は「副詞の比較級語尾:la komparativa finaĵo deadverbo」です。以下のリトアニア語副詞の例をご覧ください。
gerai (=bone) ⇒ geriau (=pli bone)
gražiai (=bele) ⇒ gražiau (=pli bele)greitai (=frue, rapide) ⇒ greičiau (=plifrue, pli rapide;baldaŭ)
pirm 前置詞(=antaŭ) / pirmai (=unue) ⇒pirmiau (=antaŭe)
paskai (=post tiu tempo, post io) ⇒paskiau (=poste)
tolyn (=fore(n)) ⇒ toliau (=pli fore(n))
daug (=multe da) ⇒ daugiau (=pli(multe) da)
 H. Trunte はE の-aŭ の語源をこのリトアニア語の語尾-iau に求めています。リトアニア語の副詞の比較級語尾がE の本来副詞の疑似接尾辞に転用され、更に前置詞や接続詞などにも拡張されたのではないか、という仮説です。
 ところで、apenaŭ は語源上も意味の上でもフランス語à peine の二語やイタリア語のappena に相当しますし、almenaŭ は語源的・意味的にはフランス語au moins(元の推定形à le moins) の二語やイタリア語のalmeno に対応します。
 -aŭ が疑似接尾辞であって正式の接尾辞ではない点を考慮すると、上記イタリア語の場合において複数の単語群としてではなく一単語として一続きに書かれる理由と同じく、「幾つかの語源に分解・分析して理解するのではなくて、全体で不可分な一つのまとまりと考えるべし」ということなのかもしれません。
 もちろん、語源に分解・分析することが決して出来ないという訳ではないのですけれども、(初歩の)学習上、あるいは運用能力の向上のためには、そうのような理解はしない方が良いのかもしれない、ということなのでしょうか?
 なお、「ザメンホフはこのaŭ という耳に優しい発音を気に入って多用したので、エスペラントを耳で聞いた時の柔らかさの一因となっている」(石野良夫:私信)という、いとうかんじ説もあります。
 「語源はE学習の役に立つ」と発言している私としては意外に思われるかもしれませんが、私の回答は次の後藤 斉氏の一文を以て終えたいと思います。
 「語源的な知識は、語彙力を高めるために役立つこともありますが、運用能力向上にどうしても必要という訳ではありません。」後藤 斉(2015)
参考文献
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 DAMBRIŪNAS, Leonardas, Antanas KLIMAS &William R. SCHMALSTIEG 1966 1980 Introduction to modern Lithuanian, 3rd edition. Franciscanb Fathers (New York).
 後藤 斉 2015『単語力から総合的な語学力へ―エスペラント応用語彙論』JEI(東京).
 GÜNKEL, Claus J. 1996 “Adiaŭ, naŭ ĵaŭdaj fraŭlinoj!” Literatura Foiro Vol. 27 #162 .
 LYBERIS, Antanas 1988 Lietuvių-Rusų kalbų žodynas. Mokslas (Vilnius).
 MATTOS, Geraldo 1987 La deveno de Esperanto. Fronto (Chapecó, Brazilo).
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 POŠKA, A 1971 “Povus esti, ke Zamenhof konis iom el la litova” Esperanto #787.
 櫻井 映子 2007『ニューエクスプレス リトアニア語』白水社(東京).
 TRUNTE, Hartmur 1971 “Ĉu la litova influis Esperanton?” Esperanto #787.
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(本件は小川博仁氏の回答を簡略化しました:編集部)

【La Revuo Orienta誌 2019年6月号より】

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